点々

そぞろごと Reviews + Opinions

「官僚たちの夏」 城山三郎

小説を読むなら知らない世界を体験した気持ちになれるような綿密で硬質なものが読みたいと、色々情報を集めながら最初に取り上げたのが「官僚たちの夏」です。私の父の世代のおじさんたちの話ですが、読んでいる間時代の古さを感じることなく読みました。しかし今の時代の人間は過去の小説を読むと「さっさと携帯で電話すればいいのに」とかいちいち思ってしまいます。連絡がつかないからこそのドラマってあるんですよね。 

 

自分が日々孤独に作業しているせいか、最近究極の組織体といっても過言ではなかろう官僚の世界に突然興味が湧きました。身近に霞ヶ関で働く人はいませんし、仕事で足を踏み入れたこともありません。せいぜいリサーチのために国会図書館に通い詰め、その道中霞ヶ関の街にわ〜っとなったくらいです。そして残念なことに経済にまったく明るくないのでこの物語の中心にある法案のダイナミズムがまったく響いておりません。だから私はこの小説を日本経済の転換期の男たちの物語というよりは、人間ドラマとして読んだようです。

 

ワークライフバランスを先取りしているお洒落国際派片山に理解を示しつつも、主人公風越の”仕事に命を燃やし尽くす!”みたいな古武士風生き方の方が心の底では好きです。なにしろ私の憧れは「燃えよ剣」の土方歳三のような最後の台詞が吐ける人生ですから。

だけど風越みたいな仕事哲学の夫だったら嫌だなぁ・・・。子供を育てながら、妻である自分も仕事に命を燃やし尽くしたい。すると、家庭は回らない。するとワークとライフのバランスはどうするのよ!という不毛な議論が待っているはず。意外とこの小説が提起する問題は今の時代に通ずるものがあります。

仕事に邁進する親の背中は子供に絶対的に良い影響を与えるはず。(最近宇宙から帰還された油井亀美也さんもインタビューでそんなお話をされていました。一生懸命働くお父さんの姿が立派な宇宙飛行士さんを生んだのだなとニュースをみて思った記憶があります。)しかし私は母親です。今の時代の母は自分の道を簡単に諦められないのです。夫の部下の妻にメロンを持っていくような行いはできない。でも子供の健やかな成長は私の一番の願いであることは間違いない。いやしかし風越のように仕事への情熱をほとばしらせたい、いやいや母の本文を十二分に果たすことが条件だ・・という間で悶々とする自分を思い描くという、本編にまったく関係ない感想を抱いてしまいました。

それはきっと私の中に風越のようなおじさんへの憧憬があるからなのでしょう。熱い職場に焦がれます。

 

 

 

官僚たちの夏 (新潮文庫)