点々

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WOWOWドラマ「マークスの山」

むぅ。おもしろかった・・・!DVD3枚、全5話。日曜の午後に一気に観てしまいました。

原作と違うところもありますが別物と呼びたくなる程でもなく、どちらも醸し出す世界観に緊密さがあって観終わった後は原作読了後と似たような気分になりました。もちろん原作を読んでいる時に想像してたのと違うなと感じることもちらほらありました。例えば内面に悶々とした問答を抱えながらもアウトプットは神経質な程少なめな合田さんがドラマでは熱血漢寄りの人間として描かれていたり、がんじがらめの組織でも上品にスマートに渡ってしまうイメージだった加納には押しつぶした声よりももっと澄んだ声で話して欲しかった、などなど。しかしイメージの答え合わせなぞ忘れさせてくれるほど素晴らしい警察人間ドラマで、引き込まれてしまいました。特に後半車の中で合田が加納に声を荒げるシーンには涙が出ました。感情の通常営業ラインを超えた激情って、その人間が抱えているものに対する必死さが表れていてぐっと来ます。そしてヒロユキと真知子の互いに対する優しさや、世界にふたりぼっちな悲壮感や純粋さがせつなく、これまた泣けました。

 

それにしても、原作を読んでいた時強く心に残った組織というもののやるせなさが、映像で観るとさらに強くなります。警察も検察も出版社でさえも「上からの命令だ」の一言ですべてが終わってしまう。人の命を救うことを第一に優先して然るべきなのに、そうはさせてもらえない世の中の構造。しかも「上」を辿っていけば、各組織のやんごとなき方々によって積み重ねられた暗部を結託して守ることで組織が維持されているという現実。原作は希望も正義もない形で終了しましたが、このドラマ版での明るい光を挙げるなら女性になった根来が取材を続ける覚悟をしていることでしょうか。しかし彼女は無事取材を進められるのか、またどこから記事を発信できるのか・・・気になります。

 

「組織の体面 vs 職務に対する正義」というテーマがこの作品の中に強く存在していますが、ドラマ版でも合田刑事、根来記者、そして静かにたぎる検事加納にも戦う姿が見られます。熱い、熱い職場現場です。至極軽い言い方ですが、世の中の不条理と戦い、命(または首)をかける程の仕事をしているってすばらしく充実した日々であろうと想像してしまいます。これまたドラマオリジナルの展開でしたが貴代子が合田に言う「あなたはその緊張感に身を置くことが好きなのよ」みたいな台詞に象徴されていました。すぐに自分に置き換えて考えたがる母たる私の悪い癖ですが、彼らのように100%のコミットメントを求められ、緊張感を切らすことが許されない仕事を持ちながらも家庭がある人はどのように折り合いをつけるのだろう。家庭を放り投げて任せられる妻(か夫)がいる人ならいざ知らず、そうでなければ両立し得ないのだろうか。ワークライフバランスなんていうファンシーな言葉は夢でしかない、そんな世界なのかもしれません。

 

兎にも角にも楽しめました。次回は早速WOWOW制作の「レディ・ジョーカー」を観たいと思います。

 

マークスの山 DVDコレクターズ・BOX (3枚組)