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WOWOWドラマ 「レディ・ジョーカー」

WOWOWドラマ「マークスの山」がおもしろかったので、早速「レディー・ジョーカー」も借りてきて観ました。胸、震えました。原作は長いですし、登場人物も場面転換も多いことから頭の中で整理しながら読むのに苦労しましたが、やはり映像化されるとわかりやすいものです。(原作と異なるところはあるにしろ。)原作で目立っていた合田さんの心理的壊れかけな状況はドラマにしにくいという事もあるのでしょうが、ドラマ版では城山社長の立場のやるせなさが際立ち、主役のように感じるほどでした。原作との違いなどは気にならず、ひとつのドラマ作品として集中して鑑賞することができました。

 

犯行グループが名乗るレディ・ジョーカー。そもそもジョーカーという言葉は、障害のある娘と病気の妻を持つ布川の苦労多い人生から紡ぎ出されたものでした。不遇な人生を過ごしている人や、人生に行き詰まった人がたまたま集まり、ただ何かに一泡吹かせたいという理由で始まった事件にただ運悪く巻き込まれた日の出ビールの、たまたま社長であっただけの城山氏。結果的に事件を大きくしてしまう要因は城山氏関係者側にもあったとはいえ、終盤城山氏が合田さんに言ったように、彼はただ「ジョーカーを引いてしまった」だけのように見えました。しかし結果として彼は会社と身内に不幸を招いただけではなく、最終的には自身の命まで落としてしまった。その原因は、城山氏が企業運営に人としての筋を通そうとしたことによって「社会のルール違反者」とみなされ、警察からも見捨てられる要因になった・・ということでしょうか。人としてまっとうであろうとしている点で共鳴していたように見えた城山氏と合田さんですが、合田さんにしても刑事としてまっとうに事件解決をしようと動いていただけのはずです。しかし不遇な状況に追い込まれて孤独な上、今回もかわいそうなことに同僚に殴られておりました。

 

組織の体面を守ることが絶対正義という大人社会のルールの中で、人としてまっとうであろうとした城山氏や合田刑事の行動は正当化されることがないまま、エンディングを迎えました。最後の方で八代記者は「この国はいったいどうなっているんだ」とつぶやきました。八代記者が警察に絶望したように、国のお偉い方が守ろうとするものの正体を暴くことは社会のルールとして許されないわけです。暴こうとする存在は排除することで、世の中はつつがなく運営されている。それが現実だからこそ、裏組織とのつながりをいわば公表した日の出ビールの城山・倉田の行いを「勘違いしている」と、合田的ではない刑事たちは思う。しかし突き詰めて行けば、得体の知れない闇の正体も個々のお金や権力への執着であるわけですし、そのために人の命が犠牲にされるとはなんともくだらなく、せつなく、やるせない。視聴後はやりきれない思いで胸が満たされましたが、ドラマを見た感想としては、世の中の触れてはならないものを知ったような気分になって「おもしろかった-!」と大声で叫ぶほど楽しめました。家族で「現実社会でも城山のようにルール変更を伴う本質的なことに手をつけると嫌がられるよねー!」とレイヤー違いの話で盛り上がりました。

 

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